危険運転致傷罪で無罪になる理由とは?過失運転との違いを解説

社会時事

あおり運転や飲酒運転による事故が社会問題となる中、「危険運転致傷罪」で立件されるケースが増えています。

しかし、そうした事件でも無罪判決が出ることがあるのをご存じでしょうか?

この記事では、

  • なぜ危険運転致傷罪で無罪になるのか?
  • なぜ過失運転致傷罪で立件し直せないのか?

この2点について、法律的な視点からわかりやすく解説します。

危険運転致傷罪はなぜ無罪になるのか?

法的要件が非常に厳しいため

「危険運転致傷罪」(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条)は、非常に悪質な運転で人にケガをさせた場合に適用される重い罪です。

そのため、成立には以下のような厳格な条件が必要とされます。

典型的な危険運転の例

  • 酩酊状態での運転(酒・薬物により正常運転が困難)
  • 著しいスピード違反
  • 信号無視を繰り返す運転
  • 他車を妨害・威嚇する「あおり運転」

これらの危険性が明確に証明されなければ、罪として認定されません

故意や危険性の認識が立証できない場合

この罪は、運転手が「危険であると分かっていた」上で行った行為である必要があります。

たとえば、

  • 被告が「正常に運転できていた」と主張し、
  • 医師や専門家がそれを裏付けた場合、

裁判所は「故意ではない」と判断し、無罪となる可能性があります。

過失運転との線引きが難しいケース

実際には「過失運転致傷罪」(自動車運転処罰法5条)に該当する事故でも、検察がより重い「危険運転致傷罪」で起訴することがあります。

しかし裁判所が、

「これは過失にすぎず、危険運転とは言えない」

と判断すれば、危険運転致傷罪では無罪となります。

※ただしこの場合、過失運転致傷罪で有罪になる可能性は残ります(量刑は軽くなります)。

証拠が不十分な場合

以下のような状況では、「危険運転だった」と証明するのが難しくなります。

  • ドライブレコーダーなどの映像がない
  • 目撃者の証言が不正確
  • 飲酒・薬物検査が不十分

このようなケースでは、立証に失敗して無罪となることがあります。

危険運転致傷罪で無罪になる主な理由(まとめ)

理由内容
法的要件が厳しい運転行為の危険性が極めて高い場合にしか適用されない
故意が立証できない危険性を認識していた証拠がないと成立しない
証拠が不十分映像・証言・検査などが不完全で立証困難
過失との区別が難しい実際には過失運転であった可能性もあり、危険運転とは言い切れない

なぜ過失運転致傷罪で立件し直さないのか?

「危険運転致傷罪」で無罪となっても、より軽い「過失運転致傷罪」で再度立件すればいいのでは?と思う方も多いでしょう。

しかし、それができない事情が刑事手続き上いくつもあるのです。

過失運転致傷罪が「予備的訴因」として起訴されていない

刑事裁判では、裁判所が勝手に別の罪で処罰することはできません。

たとえば検察が、

  • 主位的(本命)に「危険運転致傷罪」
  • 予備的に「過失運転致傷罪」

というように併せて起訴していれば、裁判所は「危険運転は無罪だが、過失は成立」と判断できます。

しかし、「危険運転致傷罪だけ」で起訴した場合、裁判所は過失運転致傷罪での判断ができず、無罪で終了します。

構成要件がまったく異なるため

罪名必要な立証内容量刑
危険運転致傷罪故意的で極めて危険な運転であること重い(懲役15年以下など)
過失運転致傷罪注意義務を怠った結果、事故が起きたこと軽い(罰金・懲役7年以下)

検察が「危険運転」と判断して起訴すると、途中で「やっぱり過失に」と変更するのは難しいのです。

特に、公判が始まった後は、訴因変更には裁判所の許可が必要になり、弁護側も強く反発します。

時効・証拠劣化の問題

仮に無罪判決が出た後に過失運転致傷罪で起訴し直そうとしても、

  • 時効が成立している
  • 証拠が劣化・消失している
  • 手続き的に再立件の負担が大きい

といった理由から、現実的に再起訴は困難な場合がほとんどです。

社会的圧力による「重い罪での立件」方針が裏目に出ることも

世間の注目を集める悪質事故では、検察・警察も「厳罰を求める姿勢」を見せようと、より重い罪での立件に踏み切る傾向があります。

しかしその結果、証拠が足りず無罪、しかも過失運転でも裁けないという、残念な結末を迎えることもあるのです。

結論まとめ:なぜ過失運転致傷罪で立件し直せないのか?

理由説明
訴因を追加していない危険運転「だけ」で起訴された場合、他の罪には切り替えできない
構成要件が異なる危険運転と過失運転では、必要な証明内容が全く異なる
時効や証拠の問題無罪後に再度起訴するには法的・証拠的なハードルが高い
社会的・政治的な圧力厳罰化の姿勢を重視して危険運転で起訴したが、立証に失敗するケースも

最後に

「危険運転致傷罪」は重大な結果をもたらす犯罪である一方、成立には非常に厳しい条件が課されています。

そのため、立件の仕方を誤ると「無罪となり、過失でも裁けない」という事態に陥ることがあります。

こうした問題を避けるには、

  • 適切な罪名の選定
  • 予備的訴因の設定
  • 十分な証拠収集

などが極めて重要です。

今後も、重大事故に対して公正かつ慎重な対応が求められると言えるでしょう。

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